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2014年11月07日
第二十五回 南豆製氷、その後
旧南豆製氷所(下田市)
大学を出てから10年間、伊豆の下田に住んでいました。風待ち港、そして開国の港として栄えた下田の街には、外部の人を温かく迎え入れる文化があり、小さな城下町の骨格や情緒ある風景が各所に残っています。ここで私はいくつかのまちづくりの活動に参加させてもらいました。その一つに、以前このコラムでも取り上げた旧南豆製氷所の保存活用運動があります(記事はこちらです)。
大正12年に建造された旧南豆製氷所は、伊豆半島で最大規模の伊豆石造りの建築でした。国道135号線沿い、下田の中心市街地の玄関口という立地で、下田の水産業を支え続けたという産業遺産としての側面も持ち合わせていました。平成16年に操業を終えてからは、地元有志がその保存活用を目的に様々なイベントを行なってきました。美術作品展やライブ演奏などのイベントを通し、空間の可能性を探り、多くの方に旧製氷所を体験してもらいました。平成19年には国の登録有形文化財にもなりましたが、老朽化による崩壊の恐れも高まり、今春惜しまれながらも解体されました。
来春、旧南豆製氷所の跡地に「NanZ VILLAGE」という名の商業施設が創られようとしています。フランス最大の港町マルセイユをイメージしたマルシェやブイヤベース専門店、レンタルオフィスなどの入る複合施設となる予定で、クラウドファウンディングで広く一般から資金を募っています。
アイコニックな旧建物の造形を一部引用したフォルムや、実際に使われていた伊豆石を用いるなど、旧南豆製氷所を強くリスペクトした場が計画されています。旧製氷所の記憶を残しつつ、新たなランドマークとなってくれることを期待しています。
古い建造物が関係するまち並みの未来を考える際には、完全保存やリノベーション、コンバージョンなどさまざまな手法がありますが、旧南豆製氷所のようにその記憶を残しながら新たな場の価値を創り出していくということも可能です。新しくできる場が下田のまちにとってどの様な存在になっていくのか、しっかりと見守っていきたいものです。
もうひとつ忘れてはならないのは「まち遺産」ということば。旧南豆製氷所の保存活動の中で生まれた概念で、身近にある歴史的な要素(伊豆石造りやなまこ壁の建造物に限らず無形文化も含めたもの)を見直すという考え方です。市内外の多くの方々に参加していただいた調査活動を通して、まち全体の大切な要素を見渡す視点を持つことができました。今では下田市景観まちづくり条例の中に位置付けられ、数多くの「下田まち遺産」が認定されています。旧南豆製氷所の見えない痕跡が、これからもまち全体に残ってくれるでしょう。
執筆者/杉山智之建築事務所 杉山 智之
Posted by 日刊いーしず at 12:00